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雨が降る、第1話です。
なんか、時代劇風になりそうで困った。
イメージとしては、出来ればウエスタンな方がよかったんですが....(苦笑)
ティエリアが女性です。
直接的な表現は在りませんが、掠るようにそういった行為を匂わす表現があるかも。舞台が舞台ですからね。
それでは、どうぞ。
”ベリル”が捕まった――
そんな噂がロックオンの耳にも届いたのは、あの行きずりの出会いから数日後。
”ベリル”とは、国際的大規模な暗殺組織の実行部隊の一人。凄腕の暗殺者。
過去、彼に狙われて無事逃げおおせた者は、誰一人としていないと言われる伝説の人物だ。
年齢は公けにはされていないがロックオンと同じくらいで、その功績が人の口の端に上り始めたのもほぼ同時。
外見的な特徴ではっきりと目撃者の証言が一致しているのは、見事なエメラルド・グリーンの瞳くらいだ。
ゆえに、通り名を”ベリル”とその瞳になぞらえた宝石の名で呼ぶ。
瞳の色まで同じなのか、聞けば背格好も似ているらしいが、なんとも奇妙な気分だ。
まあ、人間なんて似たような姿形をしているのは大勢いるが。
俺には、関係ねえよ...
同僚達から、何時もつかみどころの無い飄々とした男と揶揄されるロックオンは、この事件に関しても興味を持ったのはほんの数秒。
直ぐに意識は別の場所へと飛んだ。
必要以上に同業者を詮索しない。関わらない。自らをアピールしない。
彼の拘りだった。
特別な存在など作ってしまったら、もしもの時に迷いが生じるかもしれない。命を惜しんだりするかもしれない。
その一瞬が逆に命取りになり兼ねない。
そんな事態だけは避けたい。避けなければならない。生きるために。
女もその時だけの相手でいい。二度と会うことが無いのもまた縁だ。
数日振りに、彼は例の店に足を運んだ。
これ、お願いね...
渡された洗い物を済ませ、小走りに店の裏側から続く道を走りゴミを捨てに向かう影。
薄紫の洋服の肩の上で切り揃えられた、濃い目の紫の髪が上下し、白く細い腕に下げられた袋が揺れる。
地面を蹴って進むその姿はとても軽やかで、足音すら聞こえないかのようだった。
所定の位置に辿り着き荷物を下ろすと、素早い動作で身を翻し来た道を引き返していく。
先日、この繁華街にふらりと現われた少女だった。
何処から来たのか訪ねても、彼女の答えはさっぱり要領を得ない。行く宛もない。家族もいない様子だ。
埒があかず、プトレマイオスの女将は公安所にでも届けようかと思ったが、すぐに考えを改めた。
少女が何かに怯え戸惑う姿は常軌を逸しており、またこの地域は非合法の商売で成り立っている場所でもあることから、彼女には「迷子を役場に届ける」という選択枝はあり得なかった。
仕方なく、未成年者という年齢を考慮したうえで、”見習い”もしくは”下働き”という名目で雇った。
途方に暮れる二つの赤い瞳の奥の孤独さを無視できなかったのもあった。
それは、用心棒であるアレルヤも同じで、結局のところこの店の者は皆気がいいのだ。人の事情は詮索せず必要な時にだけ手を差し伸べる。
優しいくせにどこか他人行儀でも在り、大袈裟すぎない人間関係が心地よい。
少なくとも訳ありの人物にとっては。
それを知っているからこそ、ロックオンのような浮き草暮らしの男もひと時の憂さ晴らしを求めてやって来る。
「ティエリア、次、お客さんの案内...」
控えめな淡々とした口調の、明るい髪色の少女が店の奥から顔を覗かせて言った。
丁度裏口から入って来たばかりの、紫色の髪の少女と目が合って無表情のまま彼女らはお互い頷き合う。
少女はティエリア、と名乗った。だからそう呼ばれている。
名前以外は何も知らない。それで充分だった。
「はい...どうぞ、こちらに...」
女性にしては低めの落ち着いた声がティエリアの口から発せられ、ロックオンは驚いてその顔を見下ろした。
赤い、血のように、何と言ったか最高級の宝石のような色の二つの瞳がきょとんと自分を見上げていた。
「君は...あの時の...?」
ロックオンはティエリアの顔を見たのは初めてだ。だが、この髪と白い肌には見覚えがあった。
幾分短く整えられていたが、間違いなくあの少女だ。
「ここで...働いているのか...」
結局ここに落ち着いたのか。ロックオンは僅かに落胆する。
こんな世界には無縁だったはずの少女。これもまた巡り会わせというものなのか。
彼女に先導されて誰とも知らぬ女の待つ部屋へと向かう途中の廊下で、片目を前髪で隠した男とすれ違った。
男は柔らかな動作で軽く頭を下げる。
ロックオンも軽く頭を下げ、やり過ごそうとした。が、ふと思いついて声をかけた。
「この子、ここで...その...」
「大丈夫。下働きだけだよ。フェルトと一緒だ」
この子、というのは今自分の前を歩いている少女の事。
あの日の店先でのやり取りは、あの場にロックオンがいた事を、アレルヤも勿論知っている。
こんな子供に商売させる程うちの女将は人でなしじゃないよ、と穏やかな微笑が言外に告げていて、ロックオンの胸をホッと撫で下ろさせた。
理由はわからないが、少しだけ晴れた気分になった自分がいる気がする。
「ほら、クリス、もう行かなきゃ。先方がお待ち兼ねよ」
「え~、やだ~。あの人嫌い...」
「そんな事言わないの」
店の奥まった控え室のような場所から女将に急かされ出てきた店の女が、アレルヤを見て笑顔で甘えた。
「あ、アレルヤ。仕事が終わったら、またお話してね」
「いいよ、だからちゃんとお仕事しておいで」
嬉しそうに赤い衣装の袖からむき出しになった細い手を翻し、女は客の待つ部屋へと消えて行く。
ここは、そういう店だ。
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基本はロックオン×ティエリア、甘くはないです。
更新はマイペース。気長にのんびり、大きなお心でお付き合い頂けると嬉しいです。