aquilejia（アクイレギア）

昨日のネタの続き...
　ティエリアがお人形です。
　意味不明の散文です。

 

 

 

どこで見たんだ、お前は俺を。

幼い少年がふたり、野原を元気に駆け回っている。
先行する少年が足元に咲く綺麗な花には目もくれず、子供特有の無邪気さと残酷さで踏みしだいた。
後を追いかける少年が、一瞬立ち止まり、無残な姿になった花を悲しそうに見詰めた。

たったそれだけ。
いや、それだけで充分だったのだ。
それ以外を知らない、あの類稀なる透明な魂のお人形にとっては。

――　例のお人形さんは、どうなるんだろうな？
.....　人形？
――　何だ、　知らないのか？
　教授の研究室の窓辺に、何時もただ静かに座っている少女を。
　身動ぎ一つしない、まるで呼吸さえしていないかのような、
　作りもののようにも見える人間離れした造作の横顔が、生徒たちの視線を捕らえて離さない。
　まるで大昔の古典舞踊、コッペリアのようだってさ。

人形師コッペリウスの作ったお人形。
自らが作った人形に恋をし、憐れな妄執に取り付かれた男。
人間の心と体を与えたくて、共に語り笑い合いたくて、
狂気に走る。
だが、あれは、喜劇だった…


皮肉なもんだよな
あれだけ地球を厭い、遠ざけた教授の、愛してやまぬ妻と娘に似せて作った人形の名が、
「地球」という意味だなんて。
教授は地球に向かうトレインの事故で家族を失った。随分と前の話だ。
そして今、自分もその家族の元へ逝った。
地球に寄り付かなかった彼。
里帰りした家族が元気に暮らしていると、信じていたかったのか。
本当は誰よりも、妻と娘の眠る地球を愛していたのではないか。


人の魂を写し取る「形代」。
元となる人間の一部でも組み込めばいい。
後はただ愛でるだけ。それだけで、満たされる。
人形は心を持つといわれている。
これは...彼女は、一体誰の何を飽和しているのだろう。

「お前は、一体誰だ？」
お人形は空を見据えたまま、男の問いには答えなかった。


ロックオンの恩師が残した謎の人形・ティエリア。
彼には家族も友人も恋人もいて、普通の生活を送っていたはずだったが。
まるで取り付かれたかのように、人形へと吸い寄せられる。
哀しく淋しいお人形は、彼女を守ってくれたはずの絶対人物が永遠に住まう紫色の花園で、
待っている。
あの日の少年を。