[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
スローペースで進んでいます。
今回は、あっちこっち、いろんなキャラの過去が。皆さんいろいろあります。
出し惜しみせず、バンバン行きましょう...。
それでは、どうぞ。
「...は、あ...」
「何か、ありました?」
本日何度目かの溜息を吐く女将の姿を横目でチラリと見やり、アレルヤは眉を潜めた。
彼女の手元には中身が半分に減ってしまった何時ものグラス。アレルヤの右目と同じ琥珀色の液体。
ボリュームのある癖毛を広げながら勢いよく突っ伏すその身体を受け止めたテーブルが、ミシリと音を立てた。
「例の...件ですか?」
彼は立場は用心棒だが、店の内情にもほぼ精通している。
元々得体の知れないただの客だったこの男を、女将は何故かひどく気に入っていた。
人当たりの良い温厚さと、時折見せる鬼神のような神業的攻撃性のギャップも、そしてあの男ロックオンが連れてきたという事実も、謎に包まれた部分を差し引いても充分な魅力だった。
「そう...しつこいったら、ありゃしない!!」
いい年して何を色ボケしてんのかしらね、と彼女はぼやく。
事の始まりは、今から数年ほど前に遡る。
フェルトという少女は赤ん坊の頃捨てられていたのを、先代が拾って育てた子だ。ある程度の年齢になると店の下働きを手伝うようになり、決して表には出さないようにしていたはずなのに、どこで見たのか好色な馴染み客から何度も申し入れがあった。
養女に欲しい。
そういわれれば聞こえはいいが、決して言葉通りの意味ではないことを、女将は知っている。
大層な資産家なので、本当に養女に貰ってくれるのなら願ってもない話ではある。
だが、女将もそしてアレルヤも、その人物の良くない噂を聞いていた。
保護者になろうというのはあくまで世間に向けた体裁であり、実際は体のいい妾だ。
「冗談じゃないわよ、本当に」
先代、つまり女将にとっては父親に当たる人物から、くれぐれもよろしく頼むと任され引き受けた子だ。自分にとっても妹同然。
誰があんな色ボケじじいにくれてやるものか。
「あ~、誰か、あの子をお嫁に貰ってくれないかしら?」
貴方でもいいわよ、と傍らで既に空になったグラスを取り上げようとするそぶりを見せる男に、悪戯っぽく微笑みかけた。
アレルヤは答えない。
女将もそれ以上は言わない。
なぜなら、アレルヤには....いるのだ。だから。
結局、最終的に候補としてたどり着いた人物は、ロックオンだった。
女将は頼みがある、と言って、店を訪れた彼を女との逢瀬の部屋には通さず、自分の私室に通した。
たまには私と飲みましょうよ、と両手に抱えた酒瓶を見せながら意味ありげに笑う女将の姿に、ロックオンは嫌な予感がした。
頼みのつなのアレルヤはといえば、どこへ雲隠れしたのか、その姿は見当たらない。
「困った事になってるのよ...」
グラスに並々と酒を注ぎながら、女将は話を切り出す。
差し出されたそれを受け取り、ロックオンは心の中で何時もタイミングを外すあの間の悪い男に毒づいた。
「フェルトの事よ...」
フェルトといえば、ロックオンとて子供の頃からよく知っている。家族を早くに亡くした彼にしてみれば、同じ年頃の妹の代わりみたいなものだ。
こんな店で何時までも働かせておくのは感心しない、常々思ってはいたが。
それを言うなら、あのもう一人の少女も同じ。こんな場所にはそぐわない。
今のところは客の目に触れることは殆ど無いはずだった。
ロックオンだけなのだ。二人に自由に会う事を許されているのは。
女将からも従業員達からも信頼されているのと、どうも本人達が彼に対して警戒心をまったく抱いていないらしいというのが、その理由らしい。
「貴方が、貰ってくれたりすると、いいんだけど...」
フェルトもそろそろ年頃になる。女将は言外にそう告げている。
少し年配のクリスという女も最初は下働きだったが、何時しか客を取るようになった。
ここで、生きていくためだ。
このままでは、いずれあの二人も同じ運命を辿る事に成るのはまず間違いないだろう。
「...ティエリアの方でも、いいのよ...」
「勘弁してくれ....」
自分には荷が重過ぎる。
二人ともいい子だし可愛い。だが、そういう対象ではない。
それに、自分は...。
下げられてきたお膳を片付け、台所の洗い物を済ませ、掃除からゴミ捨てまで全ての仕事を終える頃には一日が終わる。
フェルトとティエリアはそれぞれ着替えを済ませ、与えられた部屋へと戻って行く。
途中の渡り廊下で、柱の影に座り込み、親密そうに話し込んでいる二つの影を見た。
用心棒のアレルヤと店の先輩クリスだ。
彼らは気安い仲らしく、よく一緒にいるのを見かける。
「仲、いいんだな...」
「あの人たちの事? 確かに...アレルヤは誰にでも親切だし」
誰かに聞くともなしに呟いたティエリアの言葉に、フェルトが淡々とした口調で応える。
アレルヤは屈強な外見からは想像できないほど、人当たりがよく、気さくだ。
店の女たちとも心安く話す。
「よく知ってるんだ? 彼の事」
「私は、赤ん坊の頃からここにいるから...」
「そうなの?」
「うん...店の前に捨てられてたのを、先代のだんな様が拾ってくれたの」
「そっか...同じようなもんなんだな」
ティエリアも行く場所がなくなって流れ着いたのを、現在の女将に拾ってもらったようなもんだ。
「育ててくれたのは、だんな様や女将、それから店の人たち...ティエリアは?」
「私も。親はいない....育ててくれた人はいるけど」
「そっか、同じなんだね」
自分達はどこまでも似たような境遇で、似たような生き方をしているのかもしれない。
フェルトはそう思った。
ぎこちなく慣れない笑顔で覗き込んでくるフェルトの真っ直ぐな視線を、ティエリアの赤い瞳はバツが悪そうに外した。
違う、と。
「で、本当のところは、どうなの?」
「お前だって、知ってるだろ」
ようやく女将から解放されたロックオンは、アレルヤのところへ文句の一つも言ってやろうかと乗り込んできたが、逆に先手を打たれてしまい、苦笑する。
アレルヤは元ロックオンと同業者だ。彼が現在どんな日常を送っているのか、容易に想像がつく。
仮に二人とも引き取ったとしても、経済的に不自由はさせないだけの稼ぎはあるのだが、これはそういう問題でもないのだろう。
「お前こそ、店の女の子とよろしくやってたんじゃないのか?」
「そんなんじゃないよ」
彼女にも息抜きが必要なのだ。
望まない日々の生活の中で、僅かな救いを求めて縋ってくるその手を振りほどけはしない。
自分はただ、話し相手として、憂さのはけ口だとしても。
弱々しいアレルヤの声が響き、同時に溜息交じりのロックオンの吐息を掻き消した。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
基本はロックオン×ティエリア、甘くはないです。
更新はマイペース。気長にのんびり、大きなお心でお付き合い頂けると嬉しいです。