無題（タイトル未定）１

新シリーズ・社会人話の第１話です。
タイトルはまだ未定。


　※注意書き。

ティエリアは女の子（今まで、これ忘れてた！）
ロックオンは、ニール・ディランディと表記。ティエリアの勤め先の上司。
新入社員な上、ちょっと内向的で仕事の出来ないティエリアさんと、仕事の出来る男・憧れの上司ニールさん。
この二人は、さわやか～な恋愛未満（？）　←こっちが、表の主役カップル。
ドロドロ愛憎劇は、ライルさんとアニューさんが担当（笑）　←こっちは裏の主役カップル。



それでは、どうぞ。

バタンとロッカーを閉じ、一瞬目を閉じると肩を上下させて、深呼吸を一つ。
さあ、今日も長い一日が始まる。

「おはようございま～す」
明るく元気な声が響き、賑やかな一団が通路を通り過ぎるのとすれ違う。
人が一人通れるかどうかギリギリの狭い空間で、新入社員は先輩方に気を使い縮こまりながら、先を急ぐ。
ロッカールームの彼方此方ですでに制服に着替え、長い髪を後ろで縛っている女性や、慣れた手つきで化粧を直している女性、中には着替えながら朝食代わりのお菓子を頬張っている女性もいた。
受付でタイムカードを押すと、無口な同期生が控えめに挨拶をしてくれる。
ティエリアも負けずに、「おはよう」と消え入りそうな声で応えた。
足早に売り場に向かう。頭の中で、朝一番にするべき仕事を整理しながら。
まず、日課の床掃除をして、夕べ帰る間際に届いた商品の品出し、それから在庫の補充は昨日の内に済ませておいたはず。
人の良い倉庫番の男の顔が浮かぶ。
「お、今日も早いな。ご苦労さん」
背後から聞こえて来た調子のいい声に振り返った。
満面の笑顔で手を振っているのは、ティエリアの勤める売り場の主任。ニール・ディランディだ。
「お、おはようございます。主任のが、早いです」
「あ、俺？　俺は徹夜したからねえ」
「え！？」
自販機のコーヒーを片手にニヤリと口元を歪ませる男の言葉に大げさなくらいに反応して見せると、彼は目を見開き、次の瞬間には大爆笑していた。
「うそ、うそ。んなワケないでしょうが。性分だよ」
からかわれたのだと気づいた時には、男は既に背中を向けて売り場を奥に進んでいた。
「かわいいね～、アーデちゃんは」
アーデちゃん、ニール・ディランディはティエリアをそう呼ぶ。
入社したばかりの頃、慣れない接客で全身カチコチな上に無理矢理作った笑顔が引きつりまくって声が裏返ったのを、彼はさも面白そうに眺めていた。
昼休憩に緊張のため食事もろくに喉をとおらないでいた姿に、肩の力を抜けよ、と声をかけてくれた。
あれ以来、何かとティエリアにかまってくれる。
人付き合いもあまり得意ではなく、話題にも乏しい内向的なティエリアにとって、気安くとは言い難くとも何とか会話の出来る貴重な存在だった。
そして密かに、上司としても異性としても憧れを抱く相手でもあった。

「ごめん～、遅くなった～」
先輩のクリスが癖のある髪を後ろ手に束ねながら、息せき切って駆け込んでくる。
箒を片手に視線を上げたティエリアに向かって、片手を顔の前に立てて謝る仕草をして見せた。
「本当、ごめんね。品出しは、あの箱？」
「はい」
「公休日に暢気に遊びすぎちゃって、朝そのまま来ちゃった。昨日、大変だった？」
「いいえ。何時もと同じです」
「そっか～。良かった。あ、ティエリアにお土産買って来たから、後でね」
そういえば、夕べは寮内で彼女を見かけなかったな、とティエリアは考える。
お洒落や甘いものに目がなく、合コン好きな少々苦手なタイプではあるが、何故かあちらは気に入ってくれているらしい。
「今日のお昼は、多分シフトで一緒よ。その時にね」
軽くウインクしながら、彼女はバックルームに飛び込み身の回りの荷物を置くと、再び売り場に戻って来た。
掃除が終わり、補充品を追加し終わると同時に開店前の音楽が流れる。
慌ただしく招集の声が響いた。
「時間がないからな～。本日の連絡事項は特になし！　各自、今日も一日励んでくれ！」
投げやりなマネージャの言葉に、了解、と短い声が揃い、それぞれが持ち場につく。
 
開店時間。待ち構えたかのように朝一番の客が売り場に現れる。
「いらっしゃいませ！　本日も、ご来店ありがとうございます！」
何時もの日常のスタートだ。