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行き成りな、急展開?
ちょっと配分を間違えたかもしれません。最初がゆっくりしてたからなあ~。
それでは、どうぞ。今回も甘い展開は皆無です。
「これで、3軒目ね。困ったものだわ」
女将の悲嘆交じりの台詞に、すぐ側で事の成り行きを見ていたフェルトとティエリアが不安そうに寄添っていた。
ここ数日間、立て続けにこの街に軒を連ねる店が謎の襲撃被害に遭っていた。
深夜に寝込みを襲われたり、夜明け前の放火など、極めて悪質な犯罪だ。被害がさほど大きくならなかったのは不幸中の幸いだったと言える。
恨みを持つ者の犯行にしては、被害者に一貫性がない。
手当たり次第、もしくは無差別といった見解が有力だった。
「何時も見回り、ご苦労様。大変ね」
女将が、調べ終わった現場を取り仕切っていた一人に労いの言葉をかける。
一見すると変わった髪型をした優男風だが、れっきとした公安官であり、女将の幼馴染だった。
「こちらの店も、どうぞお気をつけて...」
表向き硬い挨拶を交わし、不躾な余所者扱いの周囲の視線を盗むようにして、彼は小声で親しげに声を掛けてきた。
「何かあったらいつでも相談にのるよ。最近はこの辺りも物騒だからね...先日も、何とかっていう暗殺団の一味が脱走したっていうし」
「ありがとう。うちには頼りになる用心棒がふたりもいるし、大丈夫よ」
「ふたり?」
「一人は、ただの客だけど...」
言いながら肩を竦める女将の視線を辿っていくと、話題の用心棒と思われる男と、長身の一見遊び人風な人物がいた。
アレルヤのほうは彼自身も面識がある。
だがもう一人は...どこかで見たような気もするのだが、とそこまで考えた時、現場となった店の奥から一人の少年が姿を現した。
「一通り終わりました」
「ああ、ご苦労だったね。そうだ、刹那、こちらはあそこに見えるあの店の女将だ。彼は新入りで、刹那というんだ。若いけど真面目でいい子だよ」
報告に来た部下を女将に紹介し、フェルトとティエリアにも「時々使いに寄越すから、覚えておいてね」と付け足した。
定期的に見回りにくるとの言葉を残して去って行く男を、女将は黙って見詰める。
先代の父親が生きていた頃からの付き合いで、兄妹のように育った男だった。
今でもこうして自分や店の事を気遣い、いろいろ便宜を図ったりしてくれる。少々気は弱く押しも弱いが、人がいい。
ただそれだけだ。
彼は役人なのだから、違法行為にも近い商売をしている自分とは、相容れない立場のはず。
実際のところ、この付近一帯はあまり公的にはお世話になりたくない人間の集合場所だ。
こうして事件が明るみになった以上踏み込まれるのは仕方無いが、やはり住人達の彼らへの風当たりは強い。
夜道を二つの影がゆったりとした歩調で進む。
「ごめんね。見回りなんかにつき合わせちゃって」
「いや、別に構わないが」
恐縮するアレルヤに、ロックオンは何でもないと笑う。どうせ暇なんだ、と。
公の機関をあまり使いたくない地元の人間達の気持ちを量ってか、女将はアレルヤに夜間の見回りを依頼した。
仕事の範疇内だから快く引き受け、こうして早速実行しているが、おまけまでついて来た。
「そういえば、ここのところ、頻繁に店に顔を出すね」
大して仕事をしているとも見えないのだが、と素朴な疑問が生まれる。
確かこの男は仕事を終えた後、店にやって来るのだ。厭わしい血の臭いを、死臭を消すために。
全てを拭い去って前に進むために。
だがここ一月ほどは違う。
女達が口を揃えて言うには、三日と空けず訪れるわりにはその気もなく、ただ酒を飲んで眠りこけたりする事も多いらしい。
「で、あの子、どうだったの?」
「あの子?」
「惚けない。ティエリアだよ。相手してもらったんでしょ?」
シレッとした顔で破壊力絶大な言葉を吐くアレルヤに、ロックオンはらしくも無い酷く狼狽した態度で答える。
「お前、何を!? んなワケ、ねえだろ!」
アレルヤは、冗談だよ、と声を立てて笑う。まだうろたえたまま立ち直れず独り言を口走る男に、急に真顔で向き直った。
「貴方が足しげく通って来るのは、心配だから?」
「誰が、だ?」
「さあね。女将かフェルトか...僕?ってことはないか。それとも、あの子かな。なんか変わってるしね」
ティエリアは普通とは違う、ロックオンも直感的な感覚でそう感じた。
職業柄いろんな人間を知っている。
一目見れば大体、どんな生業の人間かなど想像がつくものだ。
彼女の場合は、フェルトのように世間知らずなだけとは異なり、一般的という表現を逸している。
見た目は普通の女の子だが、細く華奢な体つきでいてどこか隙が無い。動きに無駄が無いのだ。
まるで自分達のように。
「女将は、あの子に貴方を押し付けるつもりのようだけど」
「何を考えてんだか...」
「貴方は、大人の女じゃ駄目、と考えたからでしょう?」
物分りの良い、もしくはプライドの高い大人の女は、ロックオンが危ない橋を渡ろうとしてもなりふり構わず引き止めたりはしない。
過去の彼の女性遍歴を顧みても、それは明らかだ。
「女将は、貴方に普通の生活をして欲しいんだよ」
「だからといって、なあ...」
あれはあんまりだろう、と頭を抱える。
決して彼女に魅力が無いわけではない。よく見れば美人だ。数年後にはかなり期待が持てる。
まだ女らしさは皆無だが、あと2、3年もすればあの細長いだけの全身にもそれなりに柔らかな成長が見られるのではないか。
大人になれば、案外自分の好みかもしれないとさえ思ってしまう。
「皆の信じるとおり、普通の子ならね...」
アレルヤらしからぬ、奥歯に物の挟まったような含みのある言葉だった。
彼は何かを知っているのだろうか。
ロックオンは問い質したい衝動に駆られたが、目の前の人物は何も聞くな、と無言で拒んでいるように見えた。
遥か前方に、派手な勢いで火の手が上がっていた。
方角と距離から照らし合わせると、最悪な答えが導き出される。
プトレマイオスだ。
彼らは顔を見合わせて頷き合い、そのまま後先考えずにただ急ぐ。
予感は的中、しかも行動を起こした初日からこれだ。
脳裏を、数日前店の様子を人目を避けるように窺っていた同業者の影がチラつく。
「クソッ!!」
軽装なぶん、アレルヤの方が速い。ロックオンは遅れ気味になり悪態をつく。
あっという間にアレルヤの背中を見失ってしまった。
現場にたどり着いた時には、店の奥側の離れは粗方燃え落ち、鎮火しかけていた。
あの棟は従業員の住居だ。犯人がそれを承知なら、狙いは従業員の誰かということになる。
アレルヤの姿はなく、人だかりの中から女将だけが確認できた。
「皆、無事か? フェルトは? ティエリアは?」
「アレルヤが、助けに行ってくれたわ...あの子達、離れに戻って休んでいた時間よ」
全部を聞かないうちに、ロックオンは燻りかけている火の中へと踏み込んで行く。
蜃気楼の中に、一人の男と小柄な少女が向かい合って立っているのが見えた。
距離を置いて、よく知る二人の人物。
進む道筋に伏している男達は、アレルヤがやったのだろう。
「おい、大丈夫か?」
少女は焼け落ちた残骸の中で、恐怖に震える事しか出来ないでいた同僚とは対照的に、平然と落ち着き払っていた。
赤い、宝石のような双眸が大きく見開かれ、その奥に違う輝きを宿しながら前だけを真っ直ぐに睨みつけている。
華奢な両手には、似つかわしくない物騒な代物を違和感なく握りしめて。
その様子に迷いはなく、煤けた全身から、あちこち破れた衣服からも、火薬の臭いが漂っていた。
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基本はロックオン×ティエリア、甘くはないです。
更新はマイペース。気長にのんびり、大きなお心でお付き合い頂けると嬉しいです。